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やぎじゃないので、
野菜は食べさせないでください
妻への宣言
結婚したとき、俺は妻にこう宣言した。
「やぎじゃないので、野菜は食べさせないでください」
冗談じゃない。本気だった。
朝から天丼。昼はラーメン。夜は肉とビール1リットル。野菜は皿の上の飾りで、箸をつけるのは付き合い程度。それで何十年もやってきた。
体は動いていたし、仕事もできていた。だから何の問題もないと思っていた。
その結果がどうなったかは、もう書いた。冠動脈3本、全部詰まった。
今回は、その「食事」の話だ。連載の根っこ、四原則の1本目である。
教科書には、全部書いてあった
俺が学んだ自然療法の教科書には、食事の基本がこう書いてある。
果物と野菜と穀物を中心にせよ。主食は胚芽米か玄米。動物性のたんぱく質は魚介を中心に。天ぷら、揚げもの、油料理は極少にせよ。
食べ方も書いてある。一日二食で腹八分。一口三十回から五十回、よく噛め。食べ物は丸ごと食べろ。土地のもの、旬のものを食べろ。
読み返して、笑ってしまった。
俺の食生活は、教科書の「やるな」を全部やっていた。
野菜を拒否し、揚げものを主食にし、噛まずに流し込み、腹十二分まで食べる。ここまで見事に逆を行くのも、才能かもしれない。
しかも俺は、この教科書を人に教える側にいた男である。
知識と行動は、別物だ。それを俺ほど高い授業料で証明した男も、そういない。
天ぷら油の話
教科書の中に、忘れられない喩えがある。
フライパンの中の天ぷら油を、そのまま放置してみろ。だんだん黒ずんで、嫌な臭いを出し、最後にはタールのような黒い塊になる。
それと同じことが、体の中でも起きている———
俺はそう教わった。油は体の中で酸化する。酸化した油は細胞の働きを鈍らせ、血管を硬くし、じわじわと全身を老けさせていく。食べ過ぎ、肉食、揚げものは、それを加速させる。
教わったときは、ふうん、と思っただけだった。
自分の冠動脈が3本詰まってから、この喩えの意味が変わった。
朝から天丼をかき込んでいた俺の血管の中で、何十年もかけて、あの黒い塊が育っていたわけだ。放置された天ぷら油と同じように。
前回書いた「病気は作られる」の、これが俺の現場写真である。
完璧を目指さない
ここで、正しい健康ブログなら言うだろう。「今日から玄米菜食にしましょう」と。
俺は言わない。
なぜなら、無理だからだ。教科書どおりの食事を全部やろうとして、三日で挫折する。その挫折を、俺は誰よりも知っている。地図を20年持っていて遭難した男である。
だから俺が決めたのは、たった一つ。
まず、噛むこと。
一口三十回。金もかからない。我慢もいらない。天丼を食うなとは言われていない———よく噛んで食えばいい。それなら俺にもできる。
よく噛むと、不思議なことに量が減る。腹八分が、我慢じゃなく自然にそうなる。教科書の項目が、一つ噛むだけで二つ守れる。よくできた地図だと思う。
野菜は———少しずつ、食えるようになってきた。妻は笑っている。
やぎじゃないが、人間ではあるらしい。
次回は、体を動かす話
食事は、四原則の1本目にすぎない。
次回は2本目、「鍛練」の話をする。
山で仲間に置いていかれ、息が上がって座り込んだ男が、どうやってもう一度体を動かし始めたか。
話は、まだ続く。

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