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85歳の約束が、二つある
妻の一言が、運の尽き
スキーは、中学の頃からやってきた。
でも独立してからは、それどころじゃなかった。気づけば10年以上、板を履いていなかった。
再開のきっかけは、妻の一言だった。
「年一回でもいいから、滑っておこうよ」
50を過ぎた頃だ。軽い気持ちで、十数年ぶりにゲレンデに立った。
ところが、である。
1本滑って、リフト待ちの列に並んだところで———足元で、乾いた音がした。
10年ぶりに履いたブーツが、見事にバラバラに砕けた。
呆然とする間もなく、仲間たちが散らばった破片を拾い集めてくれている。その横で俺は、レンタルスキー屋に向かって歩き出した。
インナーブーツだけで、ゲレンデをツルツル滑りながら歩く50過ぎの男。さぞかし滑稽だったと思う。
10年の空白は、ブーツが一番よく知っていた。
普通なら、ここで心が折れて帰る。俺は、借りたブーツでそのまま滑り続けた。
これが、運の尽きだった。
それから10年。沼は深くなる一方である。
今はシーズン中はもちろん、オフシーズンもコーチについて指導を受けている。62歳、コーチ付き。高校の頃に取った1級も、受け直すことにした。昔の滑りと今の滑りは、まったくの別物だからだ。
60年近く滑ってきたプライドは、検定の受付に置いてきた。
目標は決めてある。
80歳、マスターズ優勝。
その途中に、クラウンプライズ取得。指導員の資格も獲る。
本気である。
もう一つの85歳
実は「85歳」の約束が、もう一つある。
ゴルフのエイジシュートだ。
自分の年齢以下のスコアで回る。その達成者の平均年齢が、85歳らしい。
なら、そこが目標だ。
———と、威勢よく宣言したいところだが、現実を白状する。
年中フォームをいじっているせいで、今、ボロボロである。今年3回ラウンドして、100が切れていない。
エイジシュートを目指す男が、100叩きである。笑ってもらって構わない。俺も笑っている。
それでもスキーの帰りに練習場へ寄って、3時間打ち込んで帰る日がある。たまに、じゃない。
アホと言われる。
だが、考えてみてほしい。こっちは冠動脈が3本詰まって、医者に三回「死ぬよ」と言われた男だ。
その男が、スキーで滑って、そのままゴルフを3時間打てる。
アホと言われるほど元気———。
これ以上の健康報告があるだろうか。
目標が遠いから、面白い
85歳まで、あと23年ある。
長いようで、たぶん、あっという間だ。だからこそ、遠くに旗を立てた。
マスターズ優勝と、エイジシュート。どっちも今の実力からすれば、笑われる目標かもしれない。
でも、俺が20年学んだ健康の理論には、こう書いてあった。
心の健康の第一は、目標を有する事。イキイキと張りのある心。
目標は、達成するためだけにあるんじゃない。今日を、張りのある一日にするためにある。
100を叩いても練習場に向かう足が軽いのは、遠くに旗が見えているからだ。
身近な見本
先日、妻が娘のところに泊まりに行った。
帰ってきて、こんな話をしてくれた。
娘たちと、こういう話になったそうだ。自分軸を持たないと、楽しい人生は送れない。だから自分たちも、そうやって生きよう。
そして———
「身近に、良い見本がいるじゃないか」
そういう話に、なったらしい(笑)
アホと言われながらボールを打っている姿は、家族には、少し違うものに見えていたようだ。
62歳の挑戦は、自分のためにやっている。でも、それを一番近くで見ている人の背中も、どうやら少しだけ押していたらしい。
これ以上の追い風はない。
この挑戦の記録を、ここに書いていく。ボロボロの報告も、多めになると思う。
それも含めて、楽しみにしていてほしい。

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